
[対談]
2020.11.30
【ごちめし対談・第2回】吉田類×今井了介
ゆるりと呑みながらどうぞ。吉田類と語る、創作と酒場巡り
「ごちめし/さきめし」プロデューサーの今井了介が食と関わるゲストをお迎えする「ごちめし特別対談企画」をスタート。「食」や「ニューノーマル」をテーマに、みなさんとお話します。
「ごちめし特別対談企画」第2回ゲスト:酒場詩人・吉田類さん
第2回は酒場詩人・吉田類さんをお迎えしました。全国の酒場を巡るBS-TBS『吉田類の酒場放浪記』や新著の出版など、2020年も精力的に動かれています。
ニューノーマルと言われるこの時代、少しだけ距離ができた「酒場でお酒を呑むということ」。

本日はゆったり呑みながら、類さんのルーツや互いの創作活動についても語り合います。
▼キーワード▼
●創作におけるルーツは、故郷・高知での原体験
●幼きころの「情報を得る旅」。そこから得た感性
●ライフワークの「旅と創作」。画家からイラストレーターに転身した考え
●酒場詩人が心得る「酒場の間合い」とは?
●コロナ禍における新たな「呑み」の習慣
●人とお店を繋ぐ「ごちめし/さきめし」に触れて
●名店「酔の助」の閉店。類さんが思う大衆酒場の良さ
●「お酒を呑む」ということ


1970年ごろは、ヨーロッパを放浪しながら絵を描いていた類さん。80年代に帰国してからは、東京の下町でイラストレーターに転身しました。まずはその当時を振り返ります。
創作におけるルーツは、故郷・高知での原体験
今井了介(以下:今井):「類さんにとって、絵とはどんなものですか?」
吉田類(以下:類さん):「いま思うのは、絵というのは見て楽しんで、自分がほっとすればいいと。昔の絵は全く違ったんですけどね」


類さん:「これらの作品は、下絵は用意せずに描いています。何というか、もう一瞬で描かないとだめなんですよ。旅をしながら原稿を書いていたころは、旅先で絵を描いてすぐに送らなきゃいけない。新聞用の絵は特にね。だから15分以内で描き上げるクセが身に付いちゃったというか」
今井:「なるほど」
類さん:「もともと旅人ですから、それも僕らしくていいのかなと」
今井:「絵や俳句を書かれるときのインスピレーションはどこからくるのですか?」
類さん:「子どものころ、そういう土地で育ったというのはあるんじゃないかな。四国山脈の山奥でしたけれども、そんなところにも絵や音楽などの文化的な情報が届く。そしてそれは、まっさらで純粋なんですよ」


幼きころの「情報を得る旅」。そこから得た感性
今井:「インターネットもない時代ですものね。その情報って、どういうところから得ていらっしゃったんですか?」
類さん:「積極的に美術館へ足を運んだり、あと映画が好きだったから、隣町の映画館まで観に行っていましたね」
今井:「隣町まで?」
類さん:「そこは邦画しか上映しないので、洋画の面白い作品がきたら高知の市内に行きました。高知新聞の車が僕の住む町まで来ていたんですけれど、山奥まで新聞を配り終わった後、帰って行く便を狙ってそれに同乗。小学生のころでしたね」
今井:「映画『ニュー・シネマ・パラダイス』の主人公のような少年だったわけですね」
類さん:「そうそう、そういう感じです(笑)」

類さん:「そこから得た感性は、『自由に生きる』という前提があって。あと、ひとつ前に出した連載をまとめた本が『酒は人の上に人を造らず』というタイトルだったんですがね」
今井:「存じ上げています」
類さん:「その言葉は福沢諭吉の『学問のすすめ』の一節『天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず』(※アメリカ独立宣言の一節を訳したという説がある一節)から取っているんです」
今井:「そうだったんですか!」
類さん:「そして高知は自由民権運動発祥の地なので、植木枝盛(うえき えもり)をはじめとする自由民権運動の指導者がいっぱいいたんですね。彼が作詞した日本近代詩の先がけ『民権数え歌』のなかにも、その言葉を取った一節があるんですよ」

ライフワークの「旅と創作」
画家からイラストレーターに転身した考え
今井:「俳句や絵を描くことも、類さんの作品作りはすべてお酒に帰結しているじゃないですか」
類さん:「はい、すべてそうですね」
今井:「絵を描き初めたときも同じだったのでしょうか?」
類さん:「違いました。当時はシュールアートというスーパーリアルの絵を描くのが得意だったんです。でもそれって、自分は楽しいけど人を楽しませないんだよね。だから発表することもないだろうと思うようになって、画家からイラストレーターに転身しました」
今井:「そうだったんですね」
類さん:「イラストレーターは勝負が早い、つまり評価も早く分かる。雑誌なんかでイラストを描いて、評価されたらすぐにまた次の注文があるでしょ」

今井:「また注文がある=評価ですものね」
類さん:「これが絵の場合は、分からないんですよ。さらに旅を続けながら描くんだったら、絵とイラストとではテンポも違ってくるので」
今井:「それでクイックに書く習慣ができたんですね」
類さん:「はい。哲学的かもしれないけれど、掘り下げるより『もっと楽しもう』とも思ったんですね。お酒を呑んで楽しいように、絵もやっぱり楽しむべきだと。それからはほぼ、描いていて楽しい『酒呑童子(しゅてんどうじ※丹波国周辺に住んでいたとされる鬼。酒好きだったことから、手下たちからこの名で呼ばれていたそう)』をテーマに呑んべえの世界を描いています」

今井:「僕らも音楽を作るなかで、時間をかけた曲が決していいとは限らなくて。何千という曲に携わってきましたが、売れた曲に限ってひらめきがあったり、30分や1日で書いちゃったものがほとんどなんです。経験上そこから何日悩んでも、いいものになるということもほぼない」
類さん:「僕もそう思います。だからそういう意味で、自分の人生観も変えていくべきですね」
今井:「確かに。旅は、強制的に価値観を変えてくれる出来事が頻繁に起きるのもおもしろいですよね」
類さん:「マニュアルがまったく通用しないのが旅じゃないですか。国が変われば言葉も変わるし、合わせていくしかないですから」
今井:「そんなとき、一緒にお酒を呑むとちょっと言葉の壁を越えるような気がします」

今井:「僕が子供のころの音楽家でいえば、コンピューターを使って作曲するような人は大きな機材を使わなきゃいけなかったので、なかなか旅をしながら創作はできなかったと思います」
類さん:「できないでしょうね」
今井:「いまはパソコンが1台あれば、どこでも同じ仕事が続けられる。だから違う価値観や空気がある土地にも行けるようになりました。それってすごいことですよね」
類さん:「僕も同じ時代に旅をしていたら、そういう方向にも向いていたんだろうなぁ」
酒場詩人が心得る「酒場の間合い」とは?
類さん:「いままでず〜っと書き続けたことの延長にすぎないんですけれど、旅をしていると、それを記憶に残したいと思って俳句を作ったりエッセイに書いたりするわけですよ。ずっと続けているから、気がつけば自分のライフワークになっていました」
今井:「日本全国を巡りながら、触れ合あった方もすごい人数ですよね!」

類さん:「乾杯した回数で言えば、もうギネス級でしょうね(笑)。多いときはドームなどの大きな会場での乾杯もありますから」
今井:「お店やお客さんも、土地によって特徴があるんですか?」
類さん:「あります、土地によってお酒の呑み方も違いますし。旅をしていると、それがある意味客観的に見えてくるわけです」

類さん:「距離を置くというのは、僕は『酒場の間合い』と言っているんですが、大人の呑み方だと思います。それを心得ているから、いろんなところに行って楽しく呑めるわけですよ」
今井:「著書を読みながら、綺麗な呑み方をされているなぁと。地方で呑まれた後も東京に戻られていますし。僕だったら絶対、呑んだ日はそのまま泊まっていっちゃいます(笑)」
類さん:「特に意識しているわけじゃないんだけれどね(笑)」
コロナ禍における新たな「呑み」の習慣
類さん:「この状況にどうあらがうかということではなく、やっぱり受け入れるしかないんだよね」
今井:「コロナ禍においてリモート呑みができたように、新型コロナウイルスが落ち着いたら、呑みの習慣も変わると思いますか?」



今井:「新型コロナウイルスが終息しても、リモートという呑み方は残りますかね?」
類さん:「残るでしょうね。ただ、それ自体の感激は薄れてくると思うんですよ。というのは、お酒を呑むことは人と人とが密になるのが前提じゃないですか。密が楽しくてお酒を呑んでいるわけだし、もともとお酒を呑むという目的もそうやって一つのコミュニティが絆を深めるためにあるわけでしょ」
今井:「うんうん」
類さん:「だからリモートだけでは無理だと思う。一つのお酒を呑む形としては残ると思います」
今井:「それこそニューノーマルですね」
類さん:「めったに会えない遠いところの人と呑めるという利点はありますね」

人とお店を繋ぐ「ごちめし/さきめし」に触れて

今井:「僕らが立ち上げた『ごちめし/さきめし』も、なかなか会えない人や行けないお店を繋ぐサービスなんです。たまたまリリースが新型コロナウイルスの流行と重なってしまったんですが」
類さん:「『ごちめし』と『さきめし』があるんですよね」
今井さん:「“誰かにごちそうする”『ごしめし』をリリースしたあと、先払いしてチケットを買うことでお店を応援できる『さきめし』もスタートしました」

今井:「ありがとうございます! コンセプトの一つである『人にごちそうする』というところからネーミングしました。『ごちめし』は人にプレゼントするもの、『さきめし』は未来のために、『先に食べに行くね』ってお店にコミットするという使い分けをしています」
類さん:「発想がすばらしいですよね。なんかね、なんとか支援できないか? と考えるなか、形があって分かりやすく応援できる『さきめし/ごちめし』はみんなが新型コロナウイルスを乗り切る一つの方法になるなと」

今井:「大きな会社のチェーン店さんも個人店さんも同じように大変な状況ではあるものの、やはり個人で経営されているお店がなくなってしまうと『あそこのおばちゃんの煮込みがうまい!』とか、そんな唯一無二の味がなくなってしまうんだと」
類さん:「そうなんですよね」
今井:「いまはそんなお店を少しでも残せるような動きというか、お手伝いできることがあればなぁ、という想いもあります」

今井:「いまも多くの方が動いていますが、今後もっとそういったムーブメントが作れたらいいですよね。後世に残したい味やお店を、みんなで応援する未来が見えたら」
名店「酔の助」の閉店。類さんが思う大衆酒場の良さ
今井:「BS-TBS『酒場放浪記』の撮影も再開されましたが、お店の様子は変わりましたか?」
類さん:「変わりましたね。なかなか人がお店へ行けない状況が続き、それによって老舗が閉店してしまったり。神田・神保町の大衆酒場『酔の助(よのすけ)』もその一つ。できてから40年経っていて、長く愛されていた大衆酒場です。それが新型コロナウイルスの影響でなくなりました」

今井:「まったく開けていなくても、家賃と給料は払わなきゃいけないですもんね」
類さん:「そうそう。そんななか『酔の助』ご主人は粋な人で。閉店する際、店に朱筆で書いた貼り紙をしていたんですよ。その貼り紙がなかなかよかった」
今井:「なんて書いてあったんですか?」
類さん:「『ありがとうござんした おさらばゑ』と、花魁が話す“花魁言葉”で書いていて。そして最後に『おさらば“ゑ”』という文字が入っているだけで、どこか余韻が残ることが分かる店主だったわけですよ。居酒屋っていうのはそういう人たちがいて、そんなセンスが僕らは好きなんですね」
今井:「情緒がありますね」

類さん:「やっぱり酒場って違うよなと。下町をはじめ、どこの酒場に行ってもあったかい人間関係が保てるというか、築けるわけですよ。これはなかなかね、お酒抜きではできませんよね。お酒があって初めてそんなことができるわけで」
今井:「そうですね。最近、若い人たちにもそんな文化が受け継がれているなと思っていて。特に都内では、少し前から横丁ブームが起こっているんですよ! 虎ノ門や渋谷などの商業ビルのなかに横丁が作られたり」

今井:「ごちゃごちゃっと呑みながら隣の人と仲良くなって肩を組んで帰る、そういう文化が受け継がれているんだなと感じます。形は違いますが、やはりみんな好きなんですよね。ただ今はどのお店も、100%お客さんが戻っていないのが現状です」
類さん:「100年くらい前に流行ったスペインかぜもそうですが、やっぱりウイルスというのはしばらく続くんですよ。半年や1年で終息することはないし、辛く思うようにいかないこともあります。ただ過去を振り返れば、いつしか通り過ぎている」


今井:「そうですね」
類さん:「永遠に続くことはないと思うんです。だから終息するまで生き延びましょうよ、と。それこそ『ごちめし/さきめし』だったり、何かほかの形でも『みんなで協力して生き長らえようよ』、と伝えたいですね」
「お酒を呑む」ということ
今井:「今年はライフワークでいらっしゃる旅や酒場にも、なかなか行けませんでしたよね」
類さん:「自粛期間中は特に、どう過ごそうかなと。自分で料理をしようかなとも考えたんですが、取り寄せをしてみたら、これがうまいんですよ! どこもものすごく質が高くて」
今井:「プロの方が丹精込めて作られているものは、やはりおいしいですよね。お皿に盛り直すだけでよりおいしそうに見えたり」

類さん:「原稿や絵を描いたりで作る暇もないし、どんどんおいしいものを取り寄せようと」
今井:「もちろん、お酒も一緒に?」
類さん:「うん」
今井:「おいしいお取り寄せとお酒で家呑み、いいですね〜。類さんにとって、お酒を呑むこととはなんでしょうか」
類さん:「僕はとにかく、楽しむために酒を呑んでいるからね。酒場や家でも『酒を呑む』ことは、どんなときも人をハッピーにしてくれる力があるんです」

text:Wako Kanashiro photo:Kenya Abe
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