【ごちめし対談・第3回】日本テレビ 演出・プロデューサー 栗原 甚×今井了介

[対談]

2020.12.09

【ごちめし対談・第3回】日本テレビ 演出・プロデューサー 栗原 甚×今井了介

コロナで変革するテレビ制作現場の光明

「ごちめし/さきめし」プロデューサーの今井了介が食と関わるゲストをお迎えする「ごちめし特別対談企画」をスタート。「食」や「ニューノーマル」をテーマに、みなさんと語り合います。

「ごちめし特別対談企画」第3回ゲスト:日本テレビ 演出・プロデューサー 栗原 甚さん

第3回は、『¥マネーの虎』や『中居正広のザ・大年表』など、数々の人気番組を生み出してきた日本テレビの演出・プロデューサー 栗原 甚さんをお迎えしました。

テレビ番組を手がける一方で、準備の大切さやそのノウハウを初公開した書籍「すごい準備 誰でもできるけど、誰もやっていない成功のコツ!」を上梓するなど幅広く活躍する栗原さんは、コロナ禍で何を思い活動しているのでしょうか。

栗原甚さん(右)/北海道生まれ。大学卒業後、日本テレビに入社。世界40カ国以上にフォーマット販売され、現在184の国と地域で放送中の伝説的番組『¥マネーの虎』をはじめ、これまで人気バラエティ番組を多数手がけ、2013年からドラマ制作も兼任。現在は、毎クール連続ドラマ3本(水・土・日)の宣伝戦略を統括。斬新な企画で多くの視聴者を虜にする有名クリエイター

コロナ禍の社会を描いた話題の恋愛ドラマに「ごちめし」が登場

今井了介/1971年、東京都生まれ。音楽プロデューサー、「ごちめし/さきめし」を運営するGigi株式会社代表。1999年に手がけたDOUBLE「Shake」のヒット以降、安室奈美恵「Hero」やLittle Glee Monster「ECHO」など多くのアーティストの楽曲・プロデュースを手がける

今井了介(以下:今井):「栗原さんとは何かとお会いする機会が多いですが、初めて『ごちめし』についてお話ししたのっていつ頃でしたかね?」

栗原甚(以下:栗原):「ローンチ(2019年10月31日)よりも前ですね。僕は食べることが好きなので、構想を聞いて『おもしろいな』と。それからは今井さんのFacebookやSNSなどで動向を気にしていましたよ」

今井:「それはすごく光栄です(笑)」

栗原:「最初は『ごちめし』としてローンチされたじゃないですか? それが、コロナで飲食業界の人たちが大変な時、まさに僕も自分で何ができるかを考えていた時に、まさか『さきめし』という名称にして、飲食店救済プロジェクトとして始動されるとは……。テレビマンとしても『いい企画だな』って興味を惹かれました」

今井:「コロナの脅威に晒される今のような社会を予期していたわけではもちろんないですが、『ごちめし』のきっかけが東日本大震災の時に何もできなかった悔しさからで。そしてコロナが蔓延する中で、せっかく使えそうなプラットホーム(ごちめし)があるなら、3.11のような悔しさはもう味わいたくないと『さきめし』を作りました。そういう意味では、偶然ではあるけど『社会の困りごと』に対して『準備』していたのかな?と。だから日テレさんの水曜ドラマ『#リモラブ ~普通の恋は邪道~(以下、リモラブ)』※で『さきめし』を取り上げていただいたのはすごくうれしかったです」

※「リモラブ」……2020年10月14日(水)放送開始。ソーシャルディスタンスの世界でソーシャルネットワークから始まる恋を描いたドラマ。波瑠や松下洸平、間宮祥太朗など豪華俳優陣も話題に。

「『リモラブ』は今の世相を反映した、テレビ業界にとっても挑戦的なドラマだと思います」(栗原)

栗原:「コロナの影響で登場人物がみんなマスクをしていて、SNS(オンラインゲームアプリ)の世界で出会った人に好意を持ったり、懇意にしていた飲食店に集まりづらくなったり……。そんな中で『ごちめし』(飲食サービス券)をきっかけに、お店に人が足を運びストーリーが加速していく。今井さんが考案した『ごちめし』というサービスは、コロナ禍設定のドラマにも登場するほど素晴らしい企画だと思いますよ」

今井:「本当にうれしくて何度も見返しちゃいました(笑)。栗原さんは、準備の大切さをまとめた『すごい準備』という本を書かれていますよね。世相をいち早く取り入れた『リモラブ』は、コロナウイルスが猛威をふるってから企画したと思うので、制作期間は短かったんじゃないですか? 栗原さんが大切にする『準備』を含め、たいへんだったでしょうね」

栗原:「そうですね。コロナの影響で撮影ができず、4月期ドラマの放送が延期されたり話数が減ったり、7月期ドラマの放送開始日がズレたりもしたので、そのしわ寄せからくる苦労もありました。企画段階ではコロナ禍を描くドラマではなかったんですが、急きょ世相を映したストーリーにかじを切って、制作発表も遅く8月中旬でした。でもその甲斐あって、視聴者からの反響や共感する声は多いです。篠原涼子さん主演の『ハケンの品格』を手がけたドラマ班が制作しているんですが、ベテランのチームだからできたと思います」

「あと、このチームは『世界一難しい恋』と『もみ消して冬 ~わが家の問題なかったことに』を制作していて、主演の波瑠さんとは今回が3度目。演者とスタッフが理解し合っているからこそ、成立したドラマだと思います」(栗原)

今井:「先が気になりますよね。本当は最後どうなるかこっそり聞かせてもらえません?(笑)」

栗原:「それが実は、来週の放送分を“今週”撮影してまして……信じられないかもしれませんが、今、脚本家は“再来週”の放送分のシナリオを書いているんです。すべてのドラマがそうではないですが、連ドラって初回放送の時点で3話分ぐらいの収録を終えておいて、追いつかれそうになりながら最終回の数日前にクランクアップするぐらいのスケジュール感で制作しています。理由は、視聴者からの反響や感想を取り入れながら軌道修正できるからです。人気が出てきたキャラの登場回数を増やしたり、演者の方も、視聴者の反応を受けてキャラを寄せていったり。『リモラブ』では、コロナの状況や世相をフィードバックしてどんどん変えることもできます。ドラマ班に異動して『最終回の放送が迫っているのに、こんなにギリギリまで撮影するの!?』とびっくりしました。特に『リモラブ』は、前例がないくらいギリギリの進行スケジュールで制作しているんです」

今井:「視聴者の反応を見ながらより楽しんでもらえるよう仕向けていくわけですね。栗原さんが書かれた『すごい準備』を読んでもそんなイメージがあって、本に出てきた差し入れのエピソードにしても、みんなに喜んでほしいという思いが強い人なんだろうなと」

栗原さんの著書(左)、『すごい準備 誰でもできるけど、誰もやっていない成功のコツ!』(アスコム)

栗原:「とにかく『喜んでもらいたい!』っていう自己満足でしかないんですけどね(笑)。でも、そういう相手を思いやる気持ちって、『ごちめし』も同じだったりしません?」

今井:「確かにそれはありますね。『ごちめし』はおもてなしや利他といった気持ちを表すためのものでもあり、差し入れとかと同じく、その時だけで考えると、出費をしているデメリットの方が大きいのかもしれないけど、持ってくものによって『自分のことをこんなに考えてくれてるのか』と喜んでもらえたり。そういう相手を想う気持ちが行き来するのが、僕たちが『ごちめし/さきめし』で実現したい世界だったりするので」

栗原:「僕らの仕事って、視聴者にいかに楽しんでもらうかというサービス精神が根本にありますよね。それをずっと考えているから、プライベートも自ずとそういう考えになってきますよね。

今井:「栗原さんは根っからのテレビマンなんだ。小さい頃から憧れの職業だったんですか?」

栗原:「それがそんなことはなくて。本当は商社に行きたかったんですが叶わず……たまたま就職活動でマスコミも受けていたんです。アナウンサーや報道記者志望で内定をもらって、でも入社して研修を受けたら、情報番組に配属されてADに……『あれ?』って(笑)。だから希望していたわけではないんです」

今井:「それでも人気番組をいくつも生み出してきたということは天職なんでしょう。昔から準備を重要視するタイプでしたか?」

栗原:「準備や計画を練るのは好きですね。夏休みの宿題は、最初の3日ですべて終わらせてしまうような子供でした(笑)」

今井:「正反対ですね……。僕の場合は『明日世界が滅びるのでは?』とか、やらない理由をずっと考えるタイプ」

「栗原さんみたいにきっちりしていたら、ミュージシャンにならないでもっとまともな人生を歩めたかも(笑)」(今井)

今井:「栗原さんがコロナ禍になったからこそ始めた準備ってありますか?」

栗原:「3月の中旬以降は、コロナの影響で収録が困難になって、テレビマンのだいたい8〜9割が、ロケやスタジオ収録を中止して“再放送や総集編”の制作などを考えはじめました。一方で『コロナだからこそ、できることは何だろう?』と前向きに考える人は少なくて、1割ほどでしたね。僕は、その少数派で『今だからこそ、何かできることがあるのでは?』と考えた末に、コロナを題材にしてLINE NEWSの動画コンテンツVISIONで『コロナをぶっ飛ばせ!』という新企画をプロデュースしました」

今井:「それはどんな内容なんですか?」

栗原:「シーズン1ではカンニング竹山さん、その後、ロンドンブーツ1号2号、フワちゃんに登場してもらった企画です。緊急事態宣言の発令直後に、ちょうど竹山さんと連絡をとっていて、いつもはすごく忙しい人なんですけど、外ロケやイベントは中止、リモート収録などが多いこともあってかなりヒマだと……。それで、『今までやりたくてもできなかったことを、この外出自粛期間中にやりませんか?』と打診したら、『いいですね!』という話になり、それが……バイオリンだったんですね」

今井:「竹山さんはバイオリンに興味があったんですか」

栗原:「竹山さんは小さい頃、裕福な家庭で育って、バイオリンを習っていたそうなんです。その後、父親の会社が倒産してしまい、やめることに……。大人になってからも『機会があったら、ちゃんと習ってみたい』と密かに思っていたというエピソードを聞いたので、『ぜひ、やりましょうよ!』と。竹山さんはリモートでレッスンを受けながら、1カ月間ほぼ毎日練習をして、葉加瀬太郎さんの『情熱大陸』という難しい曲を弾けるようになったんです。そして最終的にはZoomを使って“1000人ライブ”まで開催したんですよ!」

「僕は進行役として動画に出演もしましたが、裏方としては竹山さんのテンションを上げるように、綺麗なバイオリンの先生を探したり(笑)。すべてリモートで進めましたが、すごく楽しかったですね」(栗原)

栗原:「困難な状況下で『今だからこそ、できること』を考えて、自分もワクワクしながらたくさんの人に楽しんでもらえるものを生み出す……僕はそれがエンターテインメントの醍醐味だと信じています。ミュージシャンもそうじゃないですか? リモートで曲を作るようになったし、今井さんの事務所のUTAさんが作った『Be One』※も、今だからこそ生まれた曲じゃないですか。ハードルがあるとそれを乗り越えようとするのがクリエイターだと、僕は思ってます」

※TinyVoice,Production所属のプロデューサーであるUTAが作ったフレーズに、三浦大知や橘慶太(w-inds.)、AIなど錚々たるアーティストが参加し生まれた楽曲

テレビ業界のリモート化が進むとスタジオはいらない!?

今井:「コロナ禍が続く社会、アフターコロナの社会はこれまでとは全然違う世界じゃないですか。今後はどういう社会になり、栗原さんご自身やテレビ業界は、それに対してどんな準備をしていくんですかね?」

栗原:「今、日本のテレビ制作現場は、MCだけがスタジオに来て、他の出演者はリモートのスタイルが多いですよね。ところが、ヨーロッパの番組事情を調べたら、すでにスポーツの生中継までフルリモートで制作しているんです。すべて無人のロボットカメラにして、MCもカメラマンも、ミキサーも自宅で作業している。5Gといったインフラがきっちり整備されているなど、日本とは異なる環境だからできるのかもしれないですけど、他の部分の多くは既存のテクノロジーを採用しています。新型コロナウイルスによるパンデミックが本格化したヨーロッパでは、ロックダウン(都市封鎖)しても、再び感染者が急増するなど収束の見通しがつかないため、『フルリモートで番組を完成させること』を目的として掲げ、そのために何が必要か否かを徹底的に議論し検討したそうです」

「番組制作に関わるスタッフ全員が、家から出ないで番組を完成させられるなんて、想像できないですよね!」(栗原)

栗原:「早い段階で“フルリモート”という目標を掲げたこともそうですし、きっとコロナのような不測の事態が起きても、何とかできるように『準備』してきたんでしょう。それがすごいなと」

今井:「それで成立することがわかると、同時にこれまで当たり前のようにあった『無駄』なものが浮き彫りになりますよね」

栗原:「そうなんです。いずれコロナが収束しても、今回築き上げた番組制作スタイルでやっていく方針だそうです。すごいですよね。しかもそれって前向きに考えると、時差だけ計算すれば、世界中どこにいる人でもキャスティングできるということ。これまで海外にいるからキャスティングできなかった大物や有識者に出演してもらいたい時に、距離や時間といった障壁が取り払われることは、テレビ業界にとってエンターテインメントの可能性が無限に広がり、素晴らしいことだと思います」

今井:「m-floのTakuくんがやっている『block.fm』(インターネットラジオ)に何度か出させていただいたんですが、僕はたいていそのタイミングで海外にいたから、その時はリモートで出演して。場所に縛られず仕事ができるのはいいと思いましたね」

栗原:「極端な話、例えば日テレの番組に出演しているタレントさんが、番組終了直後にオンラインでつないで30秒後には、他局の番組にリモート出演できるんですよ(笑)。それってすごくないですか? “どこでもドア”みたいに、時間の概念は取り払われましたね。一方で、これまで以上に演者さんの腕が試されるようになり、リモートだと起用されない人も出てきています。今までたくさんいたゲストが呼ばれなくなり、本当に“必要な人”だけが残るんじゃないでしょうか」

今井:「ビジネスも同じことが言えますよね。いろんなことが浮きぼりになってきました」

Withコロナがコンテンツのクオリティを再認識する機会に

今井:「外に出られず他者とのリアルな交流が激減する中で、通販の売上が増えたり、サブスクの動画サービスやスマホコンテンツの利用が増えたり。時間消費のあり方が変わりつつあり、サービスの提供側からすると可処分時間の奪い合いが起こっていますよね。そんな中で、テレビ業界に何かしらの動きは見られますか?」

栗原:「日テレだけなんですが、10月から年内いっぱいのトライアルとして『TVer』で、ゴールデンタイムの番組がリアルタイムで視聴できるようになったんです。つまりスマホやパソコンさえあれば、無料で楽しむことができるんですよ。今はテレビがない家庭も珍しくないですし、仕事で遅くなって放送時間に間に合わないことってありますよね? でも『TVer』なら外出先でも、電車やタクシーなど移動中でも見ることができちゃいます。視聴者数は結構多くて、僕らとしては、番組に接してもらえる機会が増えるなら、受像機はテレビじゃなくてもいいんですよ」

「それで『やっぱりテレビっておもしろいな』と思ってもらえたらうれしいですね」(栗原)

今井:「その方がユーザーの属性とかデータを取れるかもしれないですしね。一方で、視聴率は落ちてしまうんじゃないですか?」

栗原:「それが違うんです。今は“リアルタイム視聴”と“録画視聴”の両方の視聴率を合算した『総合視聴率』が出るんです。ドラマは録画して、自分の好きな時間に見ることがありますよね? TVerや Huluなどの普及によって、いつでもどこでも見られるようになったことで、最近テレビから離れていた人が戻ってくる可能性の方が大きいんです」

今井:「YouTubeをはじめ、今はいろんな動画コンテンツが見られますよね。失礼な話かもしれないけど、やっぱりテレビを主戦場にするプロの構築はすごいです。もちろんYouTubeにも独自のいいところがありますけど、テレビとともに見るようになって、改めてそのクオリティ、プロが作ったちゃんとした映像のすごさを感じます。音楽の領域でも同じことが言えます」

栗原:「YouTubeはYouTubeでおもしろいですけど、プロならではの領域というのは確かに存在しますよね」

今井:「そんな中で、テレビ業界全体が大きく変わろうとしている。今後もどんな楽しい番組が出てくるのか、栗原さんのご活躍も期待しています」

記念撮影もソーシャルディスタンスで

text:Ryota Inoue(CR) photo:Kenya Abe


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