【ごちめし対談・第4回】ホフディラン・小宮山雄飛×今井了介

[対談]

2020.12.24

【ごちめし対談・第4回】ホフディラン・小宮山雄飛×今井了介

「ごちめし/さきめし」プロデューサーの今井了介が、食と関わるゲストをお迎えする「ごちめし特別対談企画」がスタート。「食」や「ニューノーマル」をテーマに、みなさんとお話します。

「ごちめし特別対談企画」第4回・小宮山雄飛さん×今井了介

小宮山雄飛さん/ワタナベイビーとのユニット「ホフディラン」のボーカル&キーボード。カレー好きとしても知られ、著書『カレー粉・スパイスではじめる 旨い!家カレー』(朝日新聞出版刊)は3万部を突破、18年には渋谷『Lemon Rice TOKYO(レモンライス トーキョー)』を開店。渋谷区観光大使&「美味しい渋谷区プロジェクト」CEOも務める

第4回目のゲストはホフディラン・小宮山雄飛さん! 2020年11月にスタートした「美味しい渋谷区プロジェクト」でCEO(チーフイートオフィサー)に就任したばかりの小宮山さんに、コロナ禍における渋谷という街の変化や食に関する気づきを伺います(※この対談は、コロナ禍を考慮してリモートで行われました)。

  • 「音楽」は家族、「食」は恋人
  • ブームは“まだ誰もやっていないこと”の先に
  • CEOが考える「美味しい渋谷区プロジェクト」のマル秘計画とは?
  • 食を通して、渋谷区を「住みたい街」に
  • 人を呼ぶ飲食店はおいしさだけじゃない
  • コロナ禍で広がった「音楽」の可能性
  • 「飲食店」で得られるものを再確認
今井了介/1971年、東京都生まれ。音楽プロデューサー。「ごちめし/さきめし」を運営するGigi株式会社代表。1999年に手がけたDOUBLE「Shake」のヒット以降、安室奈美恵「Hero」やLittle Glee Monster「ECHO」など多くのアーティストの楽曲・プロデュースを手がける

「音楽」は家族、「食」は恋人。ミュージシャン・小宮山雄飛が食好きになるまで

今井了介(以下、今井):「音楽業界でも食通の方はお見かけしますが、小宮山さんのようにここまで『食』を掘り下げてかつ、ご自身でお店まで経営されている方はほかにいませんよね」

小宮山雄飛(以下、小宮山):「ミュージシャンって、音楽以外のことを語っちゃいけないようなムードがあるじゃないですか。それがよくないんじゃないかと思っていて」

今井:「ありますね」

小宮山:「昔から、もっといろんなことをするミュージシャンがいてもいいのになという気持ちがあったんです」

「食好きでも、一歩表に出たら『僕はギター一本でやっていて、音楽しか知らないんだ!』ってところがあるなと。実際、相方のワタナベイビーは音楽しか知らないんですけれど(笑)」(小宮山さん)

今井:「音楽と食に対する興味はどちらが先でも後でもないんですか?」

小宮山:「音楽に関しては、小学生のころから身近にあったんですよ。家族が音楽好きでビートルズのライブに行っていたり、そんな環境で育ったから音楽は家族のような存在です。それに対して食べ物は恋人のような感じ! だから食べ物については恋人の話をするように語れるんですけど、音楽を語るのは恥ずかしいんです(笑)。今井さんはどうですか?」

今井:「僕は長いこと音楽一本ですが、実は子供のころから語れることがそんなにないんですよ。絵描きになりたかったのでバンド活動や楽器を習ったりもしていなくて」

小宮山:「逆にそのほうが、フレキシブルに動けていいかもしれない(笑)」

ブームは“まだ誰もやっていないこと”の先に

今井:「ではまずは、食の話からいきましょうか(笑)。最近改めて、小宮山さんの掘り下げる気質ってすごいなぁと。オーナーをされている『Lemon Rice TOKYO』のレシピ本まで出されていたり!」

2019年に発売した小宮山さんの著書『Lemon Rice レモンライス レシピ スパイスでつくるカレーソース&おかず37品』(扶桑社刊)は、今井も虜になった一冊。「僕、ご飯作るのがとても好きなんですよ。音楽を作っていると耳にばかり神経が集中するから、料理をすると落ち着く」と今井

今井:「レモンライス自体が、一つのブームになりましたよね。ここまで入り込んだのは、何か理由が?」

小宮山:「なんだかんだ、人がやっていないことが好きなんです。ミュージシャンって本能的に “まだ誰もやっていないこと”が好きなところがあるじゃないですか。レモンライスはすでに、インドの人たちがいろんな形で食べていますが…(笑)」

今井:「日本においてはイタリアンや中華に比べたら、手付かず感はありますよね」

「音楽で言えば、海外からアメリカのロックンロールを持ってきたり、いま最先端のテクノってジャンルがあるらしいぞ! とか、まだ手垢が付いていないものに惹かれるのがミュージシャンの性というか」(小宮山さん)

小宮山:「だからレモンライスがおもしろそうだなと。単純に好きっていうのもあるんですけど」

今井:「『Lemon Rice TOKYO』は観光大使もされている渋谷区にあるんですよね! ご自身のいろんな取り組みが繋がっているなと感じました」

CEOが考える「美味しい渋谷区プロジェクト」のマル秘計画とは?

今井:「最近は観光大使だけじゃなく『美味しい渋谷区プロジェクト』もスタートされましたが、こちらはどんな取り組みなんでしょうか」

『美味しい渋谷区プロジェクト』…渋谷区の魅力の一つである「食」を通して地域や産業の活性化を目的とした取り組み。区にある飲食店・食の魅力を広く発信し、情報発信やサブスクリプションサービスなどを順次展開予定。小宮山さんは食べログフォロワー数1位の川井潤さんとアドバイザーに就任

小宮山:「CEO(チーフイートオフィサー)として、アドバイザーに就任しました。渋谷区を食関連で盛り上げる計画をいろいろと考えています」

今井:「どんな仕掛けを進めているんですか?」

小宮山:「区内の飲食店などを紹介する特設サイトや、参加店舗で特典が受けられる定額制利用サービスもはじまりました」

今井:「サブスクリプションサービスですか!」

小宮山:「『美味しい渋谷区パスポート』と言って、月額750円のサービスです。『ごちめし/さきめし』と内容は違いますが、より食を楽しんでもらおうという点では通ずるものがありますよね!」

今井:「『ごちめし/さきめし』はもともと、帯広にある『結(ゆい)』っていうおっちゃんがやっているレストランがヒントになっているんです」

小宮山:「実在するお店がモデルなんですか?」

「帯広出身のご主人がリタイア後に地元へ戻ったら、地元の子供たちが帯広の食材をぜんぜん食べていないことに危機感を持って。それから『地元の農家さんたちの素材で作った食事を楽しんでほしい!』と始めたのが『ゴチメシ』なんです」(今井)

今井:「もとは大人が食事した分とは別に一食分の金額を(お店に)置いていって、地元の子供たちがそれを使って食事ができるサービスだったんですよ。おもしろいし、気取らないネーミングにも惹かれて『これをオンラインでやりたい!』と帯広までたずねたのがはじまりです」

小宮山:「すごい行動力!」

今井:「そこから派生して、先払いする『さきめし』というサービスが生まれたり、『ごちめし』をベースにまだまだいろんなことができるなと考えているところです。『美味しい渋谷区プロジェクト』においては、どんなビジョンがありますか?」

小宮山:「一番は、何かしら渋谷区民のみなさんに還元できることをしたい。渋谷区っていいお店はもちろん、さまざまな文化がある場所なので。それらを守りつつ盛り上げたい気持ちがあります」

今井:「具体的にはどんなことができそう?」

小宮山:「実は渋谷区って、都内で一番と言っていいほど星を持っているシェフのお店が多いんですね。なので彼らから、地元の子供たちに食育をお願いできたらいいなと思っています」

今井:「これまた、新しい試みですね!」

「実現するかは分からないけれど、小学校の給食を星付きシェフがプロデュースするのはどうかな? と」(小宮山さん)

小宮山:「月に1回シェフたちに協力いただいて、そういった食事体験ができる機会を作りたい。僕らも、地元にある2〜3万円するお店に食事へ行く機会ってあまり多くないじゃないですか。だからこそ、それを給食で体験してほしくて」

今井:「日常にプロのエッセンスが入っているのもいいですね。ダイレクトに届くナイスアイデア!」

食を通して、渋谷区を「住みたい街」に

小宮山:「CEOになった際に、(区によるんですが)渋谷区は区民税だけで賄っていることを知りました。だからいくらビルが建ってそこに会社が入っても、飲食にお金を落としていても、渋谷区は住んでいる人の区民税のみを受け取っているから、一銭もお金が入らないんですよ」

今井:「僕も知りませんでした」

小宮山:「それを考えると単に飲食を応援するというよりも、いいお店ができて街が盛り上がって、最終的に『この街に住みたいね』という人が来てくれることが重要だなと。住む人が増え活性化することで、初めて財政として成り立ちますから」

今井:「『住む』ところまで辿り着かないと財政としては成り立たないんですね」

「そういった面を知ったうえで飲食店や住んでいる人たちと、街全体でどんなおもしろいことができるかを考えているところです!」(小宮山さん)

人を呼ぶ「飲食店」はおいしさだけじゃない

小宮山:「この間、聞いておもしろいと思ったのが『食べログ』はVIP会員に向けた食事会を開いているんですって(※不定期開催、サービスは変わる場合があります)。それ以外にもユーザーとのコミュニケーションをいろんな形で取っている。それは『食べログ』というサービスを使ってくれている感謝と、ユーザーの声をフィードバックするためでもあるそうで」

今井:「ユーザーに寄り添っていますね〜」

小宮山:「いまの時代って、食事に行った人がどのサービスでその体験を拡散するかって考えると、インスタに上げるのかツイッターに書くのか、競合がもうグルメサイトじゃなくなっているんですよ。だからこそ、『食べログ』を愛用してもらえるよう常にコミュニケーションを取っていると」

今井:「なるほど! インスタなんて脅威でしょうね。写真のアピール力ってやっぱり強いし、それこそ文字を2000文字並べるより、1枚の写真のアピールのほうが強い瞬間があるかもしれないし」

小宮山:「そう考えると『飲食店=食べ物』じゃなくて、いろんなものが混ざっている状態なんだと実感しました。『ごちめし/さきめし』は飲食店と人を繋ぐサービスですが、運営されながら感じたことってありますか?」

「飲食店はファンマーケティングなんだなと、改めて感じましたね」と今井

今井:「いままでは駅前や人通りの多い場所にお店を出せば勝てる! っていうところがありましたけど、いまは家から遠かろうが『このお店が好き』っていう気持ちのほうが勝る時代。どれだけのファンを持っているかが大きなパラーメーターになってくる」

小宮山:「僕らの時代は、食べ物が好きな人なら『山本益博さんの本を読んで行こう』とか、『小山薫堂さんが紹介していたからあのお店、行ってみたい!』という感じだったけど、これからはそこにプラスして『好き』があるかどうかが重要なんですよね。『食=おいしさ』だけじゃなくなってきている」

今井:「そうですね。そしていまは、コロナ禍で『好き』なお店に足を運びにくい人も多い。だからこそみんなで、いろんな形で飲食店を応援できたらいいですよね」

コロナ禍で広がった「音楽」の可能性

今井:「音楽で言えば、リモートでできることがたくさんあるという気づきはありましたね」

小宮山:「配信ライブも盛んですしね。でもニューノーマルに慣れてきたら、飽きが来る気もする。これからはどうなるんだろう?」

今井:「ツアーの最終公演だけ、会場でのライブとオンラインを並行して開催するのはありかも。例えば東京ドームならマックスのキャパシティは5万人だけど、配信を同時に行えばよりたくさんの人が参加できるし。そういう意味では同時開催するスタイルがスタンダードになる気もしています。雄飛さんはライフスタイルに変化はありましたか?」

「意外と家が好きだから、そういう意味での不自由はなかったな。ホフディランも毎週地方に行くようなライブバンドのスタイルではなかったので、そんなに変化はありませんでしたね」(小宮山)

小宮山:「今井さんはどうでした?」

今井:「僕は旅が好きで。いくつか会社を運営しているんですが、デスクがある会社が一個もないんです。そんなわけで旅をしながら仕事をすることが多かったけど、今年はそれができませんでした」

「いつもMacBook一個を持って旅に出る! 社員のみんなに怒られちゃいそうだけど(笑)。もともと出社しないスタイルで曲作りする場所も決まったところがなかったんですが、そんな働き方に変化はありました」(今井)

小宮山:「働き方が変わったように、いまは音楽の“聴き方”も変わってきたなとコロナ禍で実感しましたね」

今井:「うんうん」

小宮山:「いまはスピーカーが主流ですが、ひと昔前の音楽はレコードに針を落としてスピーカーの前に座って聴いたり、あるいはライブに行って爆音で聴くものだったから」

今井:「僕らのような40代半ば〜50代の人って、音楽の過渡期にいたんじゃないかと。子供のころはアナログで、それからカセット〜CD/MDが出てきて、その後iTunesなどの配信、いまはSpotifyのようなサブスクリプションが出てきた。いまの10代の子たちなんかは、そもそもCDプレイヤーを見たことがなかったりしますもんね」

「そうそう! そんななかでどういう音楽を作ったらおもしろいのかなというのは、最近の考えごとですね」(小宮山)

今井:「だから一つの趣味として、アナログレコードのブームが来ているのかなとも思う」

「飲食店」で得られるものを再確認

今井:「食に関しては、そういった蘇りみたいなものはあるんですか? 本来の姿に戻ったものというか」

「個人的に、コロナ禍でカップラーメンや冷凍食品を食べることが増えたんですが『うまいじゃん!』って感じることが結構あったんですよ」(小宮山)

小宮山:「変な話、ちょっといいお店のデリバリーとカップラーメンや冷凍食品たち、どっちがおいしいかと言えばどちらもおいしいんですよ。だから食に関しては、いい意味でフラットになれたのかも」

今井:「デリバリーやテイクアウトで言えば、器って大事だなとしみじみ感じましたね。家で食べるときは、ちょっといい器にうつしてみたり」

小宮山:「分かります! 飲食店では食べものだけじゃなく、いろんなものにお金を払っていたんだといま一度気付かされました。器もそうだし接客やお店の雰囲気も含めての魅力だから、『価格=おいしさ』ではなかったと」

今井:「確かにお店の雰囲気やマスターの楽しいトークだったり、おいしさとプラスアルファの価値に僕らはお金を払っていたんですよね。味のよさだけではなく、人の温かさや空間との繋がりを心が求めていたのかも」

小宮山:「この時代を通して、身を持って感じられたのはよかった。だからこそいろんなことを教えてくれる飲食店が大好きだし、僕らにとってなくてはならない場所なんですよね」

text:Wako Kanashiro


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